それでは、一ヵ月でマスターする方法について話をしていきます。これまで選んだ旅行会話のテキストでも少なくとも100以上のフレーズが載っています。たとえ「一ヵ月でできる」「30日で話せる」とうたっている教材でもです。これらのフレーズをすべて覚えるのはかなり厳しいと思います。そこで覚えなくてもいいものは覚えないようにしましょう。
アルファベットや文字の読み方
中級以上のテキストを除くとほぼ例外なく冒頭にはその言語のアルファベットと発音の仕方が書いてあります。たとえば、ドイツ語でeiは「アイ」と読むといった具合です。この部分は飛ばしてダイアログ(会話)のあるパートに進みましょう。
なぜなら短期の旅行で自分の名前のスペルを口頭で聞かれることは少ないですし、その場合でも聞かれたら紙に書いてわたせばいいわけです。そして書かれている外国語を声にだして読む必要がある場面はほとんどないからです。
旅行に通訳ガイドがつく場合
まったく言葉が通じない国を旅行するのに、自分ですべての旅程について交通機関やホテルを手配する人はごく稀だと思います。もっとも交通機関と宿泊だけがセットで「全旅程自由時間」という旅行パックもありますが、一般的な観光旅行でしたら、現地で通訳ガイドがつきます。旅行に通訳ガイドがつくとなれば、やらなくてよくなること、あるいは日本語で済ますことができることが結構あります。
たとえばホテルですが、通常ホテルのチェックイン・チェックアウトは通訳ガイドがまとめて行いますので必要ありません。自分自身でやらなければならないのは、ルームサービス、ラウンドリーサービス、ジムやプールなど個人で利用するサービスに限られます。
自己紹介
また、「私は佐藤です。日本から来ました。」と自己紹介する場面というのも意外に少ないのです。むしろサービスを提供する側から「名前は?」と聞かれたときに、その「名前は?」という質問をしっかり聴き取って「Sato」と答えれば十分です。
そうあると一人称単数の代名詞やその後に続く動詞の活用形など(例:フランス語Jusuiドイツ語Ichbinスペイン語Yosoy)は覚えなくても問題はないわけです。また旅行会話とはっきりうたっていない会話テキストでは会社の場面、家庭での場面などは思い切って省略してしまいましょう。
さらに、同じような意味の言語は一つだけ覚えればいいです。たとえばフランス語のpardonとexcusez-moiはどちらも「すみません」という意味がありますので、若干の用法の違いはありますが、どちらか一つだけ覚えるのも一つです。
文法説明部分
会話形式のテキストでも文法を解説する部分があります。たとえば、ドイツ語ならich,du,er,sie,es,wir,ihr,sie人称代名詞)みたいなものですね。これらのテキストに載っている表を真剣に覚えようとすると、絶対に挫折します。たしかにこれらをきちんと覚えられたらば、正確な言葉を話すことができるでしょう。
しかし私はここでお話しているのは、旅先で「通じる」言葉を覚えることです。「言語を正確に話す」ことではありません。「正確に話すこと」と「通じるように話すこと」はまったく別です。
たとえば、中国人が「いつもお世話になっていました。」と言ってもあなたは何をいわんとしているかはわかるでしょう。こういう間違いは独立語を母語とする人に多いです。過去形を語尾でつくる韓国語を母語とする韓国人はなかなかしない間違いです。
この「いつもお世話になっていました。」から「いつもお世話になっています。」への進化は私たちが思っているより、遠い道のりなのです。旅行から帰ってきたらもうその言語を忘れるようなつもりであれば、こういう部分は一応読んでおくくらいにしておきましょう。
そもそも、この動詞や形容詞の活用表というものが語学アレルギーをつくるもとなのですから、できれば避けて通りましょう。こんなことを書くと教師からは怒られそうですが、オートマしか運転しない人がマニュアルの運転方法は知らなくてもいいというのと同じです。
数字の数え方
最後は、いままでと反対に絶対に覚えてほしいものを紹介します。それは数字です。数字については、次の章で話すやり方で何度も繰り返し練習してください。世の中には思ったより数字が氾濫しています。値段、量、日付、人数など、これを抜きにして正確なコミュニケ―ションは難しいですので。
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